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相続税対策にはいろいろな手法があり、そのひとつに不動産経営があります。
しかし、そもそもどうして不動産経営を行うことが相続税対策になるのかご存じでしょうか?
今回は、不動産経営が相続税対策になる理由をお伝えし、リスクと成功のポイントまで解説します。
Contents
不動産経営が相続税対策になるのは「評価額」が理由
まずは、不動産経営が相続税対策になる理由を確認してみましょう。
不動産を活用すると財産評価額を引き下げられる
不動産を活用すると相続税対策になるのは、不動産に対しては財産評価額を時価よりも低く評価してもらえることが理由です。
当たり前のことですが、1億円の現金は、税法上でも1億円の価値があると評価されます。
しかし、この1億円を使って5,000万円の土地を買い、5,000万円のアパートを建てると評価額は下がります。
それでは実際どれくらい評価額が下がるのか、計算方法とあわせてみてみましょう。
土地の評価額の計算方法
相続税を算出するときには、土地については相続税路線価格ベースで評価されます。
そして相続税路線価格は、市場価格水準(地価公示価格)の約20%低く設定されていることがポイントです。
さらに対象の土地にアパートなどの収益物件が建てられているときには、評価額がさらに18%程度下がります。
5,000万円の土地にアパートを建てた場合、
5,000万円×(1-0.2)×(1-0.18)=3,280万円
となり、約2,000万円の節税効果が得られます。
※貸家建付地の評価減割合は、借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%借地権割合60%の地域を想定していますが、実際は地域により異なります。
建物の評価額の計算方法
建物については、毎年自治体から送付される固定資産税評価額で評価されます。
固定資産税評価額は、新築時に一回評価され、その後3年ごとに経年劣化を加味して減額されていきます。
新築時の評価額は、実際の建築費より40%程度低く見積もられるのが一般的です。
そして建物が賃貸物件であれば、さらに30%程度評価額が下がることもポイントです。
アパートの建築費が5,000万円とした場合、
5,000万円×(1-0.4)×(1-0.3)=2,100万円
となり、約3,000万円もの節税効果が得られるのです。
※実際の固定資産評価額の減額割合は個々の物件により異なります。
相続税対策に不動産経営を行うとリスクがある理由
相続税対策に不動産経営を行うと、現金を相続するよりも大きな節税効果があることがわかりましたが、以下のようなリスクもあります。
- 空室が出ると収益が減少する
- ランニングコストが変動する
- 家賃を滞納されるリスクがある
- 被災するリスクがある
- かえって資産が減少する恐れがある
それぞれ詳しく説明します。
空室が出ると収益が減少してしまう
不動産経営は、空室が出ると利益が減少することがリスクとして挙げられます。
収入が減ることはもちろん、アパートなどを建築したり購入したりするためにローンを組んでいる場合には、返済が滞る可能性があることがリスクとなる理由です。
収益物件を経営するときには、そのエリアの賃貸住宅需要をよく調べておくことが大切です。
ランニングコストが変動する可能性がある
不動産経営は、20年、30年と長く続けることが多く、その間にランニングコストが変動するリスクもあります。
建築や購入に際し融資を受けている場合には、借入期間中に金利が上がって返済額の負担が重くなることは十分考えられることです。
また、新築でアパートを建てたとしても、徐々に老朽化していき修繕費がかさんでいくことも理由のひとつです。
物件が古くなることで、家賃を下げる必要が出てくることも、考慮しておく必要があるでしょう。
家賃を滞納されるリスクがある
集合住宅は住民による家賃滞納の可能性があることも、リスクがあるとされる理由のひとつです。
家賃を滞納されると収益が減るだけではなく、その対応にも手間と時間がかかり、場合によっては住人とのトラブルになる可能性もあります。
家賃滞納のリスクについては、入居の際の審査を厳しくすることである程度軽減が可能です。
コストは発生するものの、管理は不動産会社に委託すれば、家賃滞納者への対応はもちろん、入居や退去の業務、クレーム対応なども任せられるのでおすすめです。
被災するリスクがある
相続税対策で不動産経営をするときには、物件が被災する可能性があることも、リスクがある理由です。
近年地震や台風の襲来など、予期せぬ大型の天災が相次いでいます。
建築したばかりのアパートが、地震や津波で倒壊したり、大雨で浸水被害に遭ったりする可能性は拭えません。
相続税対策として建てたアパートが倒壊するようなことになれば、資産価値は大きく下がってしまいます。
不動産経営をするときには、災害リスクに備えて火災保険や地震保険には必ず加入するようにしましょう。
かえって資産が減少する恐れがある
結果的にかえって資産が減少する可能性があることも、不動産経営による相続税対策にリスクがあるといわれる理由のひとつです。
不動産会社が賃貸住宅の資産価値を判断するときに、「収益還元法」を用いることがあります。
収益還元法は、賃貸収入と表面利回りを用いて計算することが特徴です。
そのため、経年劣化や状況の変化によって入居率が下がっていたり、家賃を下げていたりした場合には、数値が悪化している可能性があります。
その結果、1億円で購入した物件が、5千万円の資産価値しかなくなってしまうことも考えられるのです。
不動産経営で相続税対策に失敗する理由と成功するためのポイント
不動産経営で相続税対策に失敗する理由と、成功するためにはどういったことに気をつければいいのかを、2つの視点から見てみました。
不動産経営は相続対策より長期安定収入を目的にする
不動産経営は、「相続対策」としてではなく、「長期安定収入」を目的としないと失敗する確率が高くなります。
相続税対策として不動産経営を考えるときには、土地を有効活用することばかりに目が行くことが失敗しがちな理由です。
たとえば相続税額を減らすためだけに、とても収益が見込めないようなエリアにアパートを建てるようなことを平気で行う人がいます。
確かに現金を土地建物に変換すれば、評価額が低く見積もられるため相続税額は減るかもしれません。
しかし、空室だらけになってしまえば、アパート経営はうまくいかずに行き詰まってしまいます。
やがてローンを返済できなくなり、売却するようなことになれば、自ら資産を減らすことにつながります。
不動産経営は、相続対策の先に長期安定収入を得るといった、「不動産投資」の視点を持つことがポイントです。
手持ちの土地が収益化できそうにないなら、将来を見据えてよりよい立地に買い換えるなど、投資家マインドを持つようにしましょう。
分割対策を考えておく
相続税対策として不動産経営をするときには、分割対策も同時に考えておくことも重要です。
資産を不動産に変えてしまうと、相続人に財産を平等に分けることが現金よりもはるかに難しくなることが理由です。
相続税を惜しむあまりに不動産を購入することで、相続人同士の間でもめ事や争いが起こることは十分あり得ます。
資産を不動産に変えるときには、不動産を含む全資産をどのように分割するのかまで考えておくことがポイントです。
まとめ
相続税対策に不動産経営を行うことが有効とされる理由や、どのようなリスクがあるのか、成功につなげるポイントまで解説してきました。
不動産経営は相続税対策としては大きな節税効果を発揮しますが、「投資家」としての視点を持たなければ長期的には失敗の可能性が高くなります。
結果的に資産が減ることがないように、長期的な収入を得ることを目標にして、不動産経営を行うようにしましょう。