不動産を相続したといえば周りから羨ましがられるかもしれませんが、必ずしもうれしい話とは限らず、なかには相続放棄してしまいたい不動産も少なくありません。
実際に相続などで引き受け手がなく、所有者不明となっている不動産(土地)は全国で410万ha、九州全土の面積に相当するとされています。
この記事では、不動産相続放棄の概要を解説すると同時に、メリットや手続きに当たっての注意点についてわかりやすく解説します。
Contents
不動産相続放棄の概要
この章では不動産相続放棄について、所有者不明土地増加の背景や、相続登記に関する法令改正の動向など、概要全般を解説します。
不動産相続放棄の概要1所有不明不動産(土地)増加の背景
ここ数年、所有不明不動産の増加は、樹木伐採などの事業ができない、公共事業の用地取得に支障をきたすなど社会問題化していました。
たとえ首都圏に所在する不動産であっても、一般的にがけ地や山あいの谷地のような不動産は、相続人の誰も取得したがりません。
さらに地方に所在する不動産にあっては、少子高齢化や地方過疎化の問題が色濃く影響し、より問題を複雑化させています。
たとえば自分たちは首都圏で暮らしていて、地方で一人暮らしをしていた母親が亡くなったようなケースでは、管理の手間を考えると相続しないほうがとくなわけです。
不動産相続放棄の概要2なぜ相続放棄をせずにすんだのか
そんな相続したくないような不動産があったとしても、相続放棄すると不動産以外の遺産も手に入らなくなるし、そうでなくても相続放棄の手続きはめんどうです。
今までの法規制では、相続放棄の手続きをふまず、相続人で分割協議もせず、不動産の相続登記をしなくてもペナルティを受けることはありませんでした。
ちなみに不動産の相続登記とは、不動産の所有者が無くなったときに分割協議により不動産を引き継いだ相続人が、法務局で登記簿の名義変更手続きをする手続きです。
相続登記は登録免許税を払わなくてはいけないうえに、登記申請に取り寄せなければいけない書類が多いなどの事情により、手続きしない人が多いのです。
不動産の相続登記手続きがなされないで放置され、さらに次の世代まで引き継がれるとだれが所有する不動産なのかがわからなくなります。
実際に国土交通省の調査によると、50年以上相続登記されていない土地は、大都市でも6%、地方にいたっては1/4以上に達するとされています。
不動産相続放棄の概要3登記義務化の動きと相続放棄の必要性
最近になって政府は所有土地増加に歯止めをかけるべく、法令改正により相続登記を義務化の動きに出ており、おそらく再来年には施行される見通しです。
法令改正後は、相続したくない土地をそのまま放置することは許されなくなるので、次の選択肢として浮上してくるのが、不動産の相続放棄です。
不動産相続放棄の概要4相続放棄とはなにか
相続放棄とは、相続人が有する一切の権利(財産)と義務(債務)を放棄することで、「不動産だけ相続放棄する」ことはできません。
相続放棄の手続きは、不動産の所有者が亡くなった時点の住所地を管轄する家庭裁判所に対し申述します。
申述にあたっては、申述者の本人確認書類、所有者の死亡と相続関係がわかる戸籍謄本・住民票などを申述書に添付し、かつ一定の手数料を納付します。
不動産相続放棄のメリット
不動産を相続放棄する最大のメリットは、所有不動産にまつわる面倒な管理やメンテナンスさらには経費面での負担から解放されることです。
不動産の管理は老朽家屋の維持や危険個所の保全やさらには害獣のすみかとしないなど、意外と手間がかかりますし、遠方に住んでいたらなおさらです。
もちろん手間だけの問題ではなく、費用の負担もかかるわけで、庭木の剪定・害虫駆除・排水溝の清掃などにかかる経費に加えて、固定資産税などの納付義務も生じます。
もう1つ副次的なメリットとして、所有者に多額の借金があった場合には、相続放棄により債務弁済義務から逃れることができます。
相続人はなにも財産だけを引き継げるのではなく債務も弁済しなければいけないわけで、相続放棄しなければ借金を背負うことになるのです。
不動産相続放棄の注意点
この章では不動産を相続放棄するにあたっての注意点について、相続放棄申述の期限・相続放棄申述義務が生ずる範囲・相続放棄後に必要な手続きを中心に解説します。
不動産相続放棄の注意点1申述人の範囲
たとえば所有者の相続人が子供たちだけだとして、子供たち全員の相続放棄が家庭裁判所で認められると、今度は次の相続順位者に相続権が移ります。
所有者の両親が他界している場合には兄弟たちに相続権が移り、同時に不動産の管理責任が生じるわけで、当人たちにとっては大変な迷惑です。
相続人(上記のケースでは子供たち)が不動産を相続放棄するにあたっては、次の相続順位者(おじさん・おばさん)にその旨を伝え、彼らにも相続放棄をお願いしなければいけません。
不動産相続放棄の注意点2申述の期限
相続放棄申述の期限は亡くなったことを知った日の翌日から3か月以内までで、余裕があるように感じますが意外とあっという間にすぎてしまいます。
3か月までに申述書を家裁に提出すればよいかといえばそれだけでなく、事前に所有者の戸籍謄本・住民票を取り寄せなければいけません。
ご自身の戸籍謄本などなら自治体によってはコンビニのワンストップサービスでも交付可能ですが、所有者の分は市町村の窓口に出向かなくてはいけません。
郵送でも取り寄せ可能ですが、申請書や添付文書の不備などによって何度か返送・再提出をやり取りするケースも多く、時間もかかります。
不動産相続放棄の申述にあたっては、取り寄せる書類に時間がかかること、慣れない手続きであることを念頭に入れ、早めの準備を心がけましょう。
所有者が長いこと音信不通だった、などの事情で亡くなられたのを知らなかった場合には、事実を知った日から3か月の経過期間をカウントします
不動産相続放棄の注意点3相続放棄と不動産の管理責任
わずらわしい相続放棄の申述手続きも終わり、家裁の審判も無事下りたらホッとしたいところですが、実は放棄手続きだけで不動産の管理責任が外れるわけではありません。
民法の規定では、相続人が不動産を相続放棄した場合には、残った相続人(または次の相続順位者)が不動産を管理しなければならない、とされています。
ではすべての相続人(相続順位者含む)が放棄した場合ですが、相続人は家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てければいけません。
つまり不動産の相続人は、相続放棄が認められた後に、相続財産管理人が裁判所により選任されてはじめて不動産の管理責任が免除されるのです。
相続財産管理人の選任候補者に特別な資格は必要ありませんが、一般的には弁護士・司法書士などの法律関係者を選ぶことが多いようです。
申立ては申立書の他に、所有者の戸籍謄本戸籍附表・不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書などの提出が必要です
申し立てにあたっては管理費用の予納を求められるケースが多く、管理対象の不動産にもよりますが、一般的な相場は20万円から100万円前後とされています。
まとめ
相続した不動産の管理が物理的・金銭的に難しい場合に相続放棄は有効な対策ですが、ふだんは縁のない家裁への申し立てなど慣れない手続きも多いので、事前に下調べをすませておきましょう。